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あなたのそばに2
「あ~・・・・・・・腹減った。」そう言いながら、そいつが体をテーブルの上に思い切り良く体を突っ伏すかのようにしてつぶやいたのは、彼の注文する印鑑の種類を決定し終えてからのことだった。
「お疲れ様、これから、急ぎで回しておくから、来週には出来ると思うよ、こっちに届いたら連絡するんで、ここに連絡先とか書いておいてくれる??」
私が彼に向かって白い紙を差し出すと、彼は「おう」と答えて、スラスラと書き出していた。
思っていたよりも、丁寧に書かれているその文字に感心しながらそれを受け取る。
「じゃ、きたらここに連絡するね。」
「おう、サンキュ、・・・・・・・・ああ、腹減った、藍、一緒に飯食わねえか??」
「へっ?!」
小さなテーブルの上に両腕をついた状態で、彼が何気なくそんなことを言ってくる。
「なんだ、都合悪いのか??」
「え、だって、私・・・・・・・・・」
答えに困って、店内のレジの前にいるお父さんをチラと見ると、私と目が合って、ニコリとすると、何も言わないでそのまま、伝票の整理を続けていた。
「・・・・・・・・・大丈夫みたい、行こうか。」
「よし、決まり、じゃあ、行こうぜ。」
ニコリと満面の笑みを称えて、颯爽と立ち上がるそいつに、私は少し慌てた。
「ちょ、ちょっと待って、その、着替えてくるから。」
「はあ??飯食うのにか?!いいじゃねえか、そのままで・・・・・・・・」
「え~・・・・・・・・・」
「じゃ、ねえよ、腹減ってんだ、さっさと行こうぜ、藍。あ、すいません、印鑑、よろしくお願いします。」
ペコリ。
うちのお父さんに愛想笑いでそう告げて、そいつはさっさと歩き出していた。
「ちょ、待ちなよ、それってちょっとひどいじゃん。」
「あ?!なんで??」
「な、なんでって・・・・・・・・・・その・・・・・・・・・」
立ち止まった柏崎の視線。
そして、レジの前で伝票整理をしているお父さんの視線。
そのふたつが、私に突き刺さるかのようにして向けられているような気がしてならなかった。
「べ、別に、なんでもない。お父さん、私、ちょっと行ってくるね。」
「ああ、いってらっしゃい。」
そんなお父さんの声に見送られて、少し不貞腐れ気味の私は、柏崎の腕を掴んで強引に家を出ていた。
「俺の車でいいか?!」
「え、うん。いいけど・・・・・・・どこまで行くの?!」
「あ~?!どこがいい??ファミレスでいいか?!俺もそんなに金ねえし。」
「いいよ、でも、ファミレスなら近いから歩いて行けるよ。」
「馬鹿か、お前。」
は??
ば、馬鹿って何よ、馬鹿って・・・・・・・・・
「お前、そこ行って食べ終われば、帰る頃には真っ暗だぞ、いくら近いとはいえ、そんな中、女一人でノコノコ歩いて帰る気かよ。」
なんて言いながら、柏崎は家の隣にある駐車スペースに停めてある自分の車の鍵を開けていた。
「まあ、無理に・・とは言わねえが、どうしてもってんなら、俺も歩きで付き合う。」
彼は、その場でズボンのポケットに両手を突っ込みながら、こっちを見ていた。
「う・・・・・・・・う・・ん・・・・・・・じゃあ、車で。」
私がぎこちなく頷くと、柏崎はその口元に笑みを浮かべて、なんだか嬉しそうにしているような気がした。
「じゃ、乗れよ、助手席な。」
「え、いいの?!柏崎、彼女とかいるんじゃないの??」
「あ?!いねえけど・・・・・・・そこまで俺、余裕ねえし。」
「え~、本当??」
「うるせえな、何疑ってんだよ、乗らねえんなら、置いてくぞ。」
「あ、ひどっ、さっき女の一人歩きは危ないって言ってたのに。」
「はあ、そうだっけ??知らねえ。」
なんて会話を交わしながらも、私達はいつの間にか柏崎の車の中にいた。
「行くぞ。」
座席に腰を下ろして、シートベルトを着けたその時に、こっちを見てそう告げてくる柏崎の視線にきゅん、となりながらも「うん、いいよ」と返事を返すと、車はゆっくりと走り出していた。