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あなたのそばに1

「?!」


いつものように、配達で事務用品をとある学校に届けに行ったところ、偶然にそいつと遭遇した。



「藍?!」

って、何ぽけっとした顔で私の顔見てるのさ。


そりゃ、その時の私の格好、決して女らしい服装ではなかったけれど、そこまでの視線は必要ないと思う。

私は、高校を卒業して直ぐに、親が営んでいる文具店の手伝いをするようになっていた。




私が手伝うようになると、母は大喜びで「じゃあ、私は外で働くわね♪」って感じに、意気揚々とパートをはじめていた。

パートに出るようになってからの母は、見違えるかのように女として生き生きとしはじめていた。


それに比べて・・・・・・・・・・・


私は家の文具店の手伝いをするようになってから、オシャレとはか・な・り・無縁状態になっていきていた。

結構重労働なところもあるんで、動きやすい服装だし、勿論(?!)ノーメイクだし。


高校卒業してから1ヶ月の間に、私、一気に女としての意識、ダウンしちゃったのかも知れない。


そう、感じ出してきた頃の、突然の再開。

そいつは、中学の時の同級生だった。


柏崎 俊(かしわざき すぐる)。


そいつは中学を卒業して、男子校に進学していた。

だから、中学卒業してからは顔を会わすことがなかったんで、そいつの姿を目にしたのは本当に久し振りだった。


そいつは、スーツに身を固めていて、颯爽とした足取りで私に気づくと歩み寄ってきていた。


その姿が物凄く格好良く見えて・・・・・で、思わず見惚れてしまいそうになってた。

だから、、私はそのことを気づかれるよりも先に、慌ててその視線を逸らして、平静を装っていた。


初恋ではないけれど、そいつは私が今まで出会った男子の中で、一番気になった奴だった。

でも、結局は何もいえないままに中学を卒業していた。


そんな過去の思いがよみがえって、私の体が熱を帯びようとしていた時、そいつが感心したようにしながら、私をマジマジと見つめた後で、ポツリとつぶやいてきた。


「お前、綺麗になったな。」

「えっ?!」


それまで、荷物の整理をしている振りをして、気のない素振りをしていた私だったのだけれど、その言葉に思わず大きな声を上げていた。


「な、なんで??」

「なんでって・・・・・思った通りのこと言っただけじゃねえか。」

「そ、そうなんだ・・・・・・・・・」


そいつに答える私の顔が、真っ赤になっていっているのが良く分かった。

変な奴。

とか、思われちゃったりとかしているのかな??


なんて、思いながらも、そいつの顔から視線を外すことが出来ないでいた。

「あのさ、お前・・・・・・」

そいつが、更に私の方に寄ってきて、更に深刻というか、まじめな顔してジッ、と私の顔を見てくる。


「な、何??」


少し逃げ腰になりながら、そいつに答える声が震えていた。

やだ、私、めっちゃ格好悪い。


「おまえんち、確か文房具店だったよな。」

「え、うん。」


アッサリとそう聞かれた途端、上昇していた私の体温が、一気に冷えてきた。

少し、冷静になってきて、その時には普通に返事を返すことができるようになっていた。


「あのさ、突然で悪いんだけど、急ぎでフル・ネームの丸印、作ってもらえるか??」

「え、大丈夫だけど、何日くらい?!」

「ん~・・・・・・・出来たら、来週には・・」

「うん、平気だよ。」

「そっか、悪いな、突然。」


ほっとした表情を見せているそいつの横で、私は気分的にはガックリとしながらも、平気を装って開け放たれた状態になっている車。

それの荷台部分の片隅に置いてあるカタログに、手を伸ばしていた。


「書体とか、その他詳しいこと、決めちゃってくれる?!」

「え、今ここでかよ??」


突然の私の言葉に、そいつは目を丸くしていた。

さすがに、それはない。

って、私も言ってから気がついた。


「お前、これから家に戻るんだろ?!だったら俺がお前の家に行くって。」

「そう??分かった。車は??」

「ん、そこ。」


彼が指差すその先には、一台の車が停められていた。


「分かった。私、この他にあと一軒寄るところあるから、先に行ってて、うちのお父さんが店番してる筈だし・・・・・・」

「了解♪じゃあ、先に行ってるな。」

「うん。」


なんて感じに、短い私の返事を最後に、私達はその場で別れていた。

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