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気まぐれ仔猫Ⅱ・7

彼は、その胸の中で安心してその口元に笑みを湛えている私の体をぎゅ、と優しく抱き締めてくれていた。


その力が強くなると同時に、私の好きな彼の匂いが鼻腔をついてくる。


私は今、彼の胸の中にあって、そしてその腕でシッカリと抱き締めてもらえている。



・・・・・・・そう、思うと、今まで我慢していた分の涙が次から次へと零れ出してきて、落ちたそれが、彼の着ている服のあらゆるところにポタポタと滴り、ゆっくりとそこに浸み込んでいっていた。





そんな私の体を彼は軽々と抱き上げながら、その手元近くに転がっていた私のバックを持つと、ゆっくりと立ち上がっていた。


「おい、ドア、開けろ。」


振り返った彼の足元には、いつの間にかその場で土下座状態のあの男のひとがいて・・・・・

でも、りゅうちゃんはそんなことなんかお構いなしに首を捻ると、彼に命令(?!)を下していた。


当然のようにしてその人は飛び上がるかのような勢いで立ち上がって、そのドアを開ける。


「・・・・・・・・・。」

「!!」


その時、その男の人と、私の視線とが一瞬ピタリと重なった。


「りゅうちゃん・・・・・・・・」

「分かっているよ。」


私がその後ですぐにその視線をりゅうちゃんに向けると、彼は少しその視線を下ろしたまま、頷いてきた。


「折本、もういい、あとはこっちで適当にやっておくから、お前は自分の仕事に戻れ。」


彼がそう言うと、折本と呼ばれた彼は「えっ?!」って感じにそれまで下げていたその顔を上げると、驚きで見開いた目をコチラに向けてきていた。


「ふ・・ん、こいつが、そういうのは嫌なんだとよ、当事者がもう良いって言ってんだ、お前はお前の仕事をしてな、俺は他は何も言わねえよ、好きにしろ。」


りゅうちゃんが面倒臭そうにしてそう言うと、彼はそれこそ目を瞬いて、何度も私と、彼との顔を交互に見直していた。


その後で、コチラに向かって深々と一礼をすると、振り返ることもなくその場から足早に去っていた。


「ありがと、りゅうちゃん。」


私がそう言いながら彼のその首に腕を巻きつけてぎゅうう~・・・・・・・・・・って、目一杯抱きついたら、流石の彼も、少し苦しそうにしていた。

でも、彼はその口元に優しい笑みを漏らしただけで、それ以上は何をいうともなく、私の体を抱え込んだまま、いつもの高級車の中へとその姿を消していた。




「中にはいれねえぞ。」


私が彼にお願いをした時、彼から返ってきた言葉がそれだった。


「うん、それでもいい。」

その言葉に頷いて、彼の首に思いっきり良く背伸びして腕を巻きつけると、私はその目の端にうっすらと涙を浮かべた状態になっていた。


例え、いれてくれなくても良い。

自分の体に残ってしまっている別の感触、それを少しでも拭うことが出来るのなら・・・・・


「・・・・・・・・・りゅうちゃんは、今の状態の私に触れるの、嫌じゃない?!」

そのまま彼に聞いてみると、彼は静かにその言葉を返してきてくれていた。


「お前・・俺を誰だと思っているんだ。」


その彼の言葉を最後に、私達はその唇を激しく重ね合わせていた。


りゅうちゃんに連れられてやってきたところは、潮の香りが届くマンションのとある一室だった。

空気もとても綺麗で、窓を開くとその向こうに綺麗な海原を見ることが出来る、夢見たいな景観を楽しむことが可能な場所だった。


私はそこに着くまでの間、りゅうちゃんの体に寄り掛かかっているうちにいつしか深い眠りに入り込んでしまっていたみたいだったのだけれど、彼に「着いたぞ」って揺り起こされて、車を降りたときは本当にビックリした。


海が、物凄く綺麗だった。


そのことに感動して暫く立ち尽くして見ている私の背中に、彼がその手を廻して連れて来られたのがこの部屋だった。


私の肩から上には、いつの間にか彼が着ていた上着が掛けられていて、それを彼に返すと、私は促されるままにゆっくりとシャワーを浴びてきた。

なんだか、ビックリするくらいに女の子が好きそうな造りのそこは、以前彼と一緒に行ったマンションとは打って変わって可愛らしいイメージで固められていた。


そんな室内に、それ系満載のりゅうちゃんがぽつん、といたりするのも案外絵になったりとかもして、私としては気分的に結構楽しめたりもした。


シャワールームには私だけが入って、彼はその間、携帯で連絡をとりあったりとかしているみたいだった。


私がシャワーを浴び終えて、用意されていた新しい上着と、バックの中に入れておいた下着を着て彼の前に姿を現すと、彼は携帯を耳に当てたままその目で私のそれを確認し、目を細めていた。

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