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真昼の月=優しい誘惑2=

「・・・・・・・・・・・・・・・。」


昨夜とは明らかに違う表情をした彼が、そこにはいた。


彼は、自分が今どんな表情をしているのか気付くことさえないままに、私の体をベッドの上に寝転がせ、その両手首をシッカリと掴み上げた状態でコチラを見下ろしている。


その顔が、血の気を失ったかのようにして蒼褪めていること・・・・・・・彼は、まだ知らずにいるのかも知れない。





私としては彼の身を案じて考え抜いた結果、こうして彼と共に此処に残り、そして、彼と共に私が嘗て住まいとしていた屋敷へ戻ろうと考えていた。


そのことが、彼にとっても良い結果を招くことを願っていたのだけれど・・・・・・・・・・


でも、ひょっとすると、私がしている事柄って、返って匠にいちゃんを混乱させてしまっているだけなのかも知れないし、有難迷惑というか・・・・・・・・ウザイだけ、なのかも。


不安になって彼の顔を見上げると、少し蒼褪めたような彼のその顔に、生気のようなものが復活してきつつあるような気がした。


「瑠依、お前・・・お前は自分の意志として、これからどうしたいと考えているんだ??」

「・・・・・・・・匠にいちゃんと一緒に、私の家に帰りたい・・・・・・って思ってる。志信にいちゃんもそのこことは理解してくれているし・・・・・・・・」


私は彼に問われるままに、自分の思いを彼に伝えていた。


「・・・・・・・・・・それが、どういったことを意味するか、ある程度は理解できる・・・か??」


少し真剣な面持ちで問い掛けられ、私も少し緊張してきて、それでもなんとか頷くことは出来ていた。


「そうか、分かった。」


言いながら彼がその目を一度だけ、閉じたような気がした。

・・・・・・・・・・・。

思わず、その表情に見惚れてしまっていると、彼の顔がすいっと流れるようにして近付いてきて、その唇が私の唇に触れていた。


「!!」

軽くではあるけれど、それが優しく触れてきた。

その柔らかな感触に、初めて触れ合った訳ではないのに、私は驚きから目を見開いた状態で彼の顔を見上げていた。


すると彼がクスリと軽く笑みを漏らして、今度は私の頬を片手で抱え込んだまま強く、唇を重ねてきた。

その唇が逃げないよう、取り囲むかのようにいつの間にか、両方の頬の脇をその手の平によって支えるようにしながら、彼が強く口付けてくる。


「・・・・・・・・・・匠にいちゃん、私、匠にいちゃんにしてほしいことがあるの・・・・・」

「あっ?!やべえ事じゃねえだろうな?!」


暫くの間触れ合っていたその唇が離れて、彼が少し落ち着いたような表情を見せたのを確認してから話を切り出すと、彼がからかうようにしてそんな事を言ってきた。


「・・・・・・・・やばいとかそういうことはないと思うけど・・・・・・・・実は匠にいちゃんに会ってもらいたいひとがいるの。」

「それで、お前には志信兄貴がいるってのに俺を連れて行く・・ってえのか??」

「うん。」


彼がさっきとは打って変わって険しい表情で私の顔を見下ろしてきた。


「・・・・・・・・・誰だ?!」

「ここでは・・・・・」


私が言いにくそうにして彼からその視線を逸らすと、彼は面白くないと言った感じにしてその身を起こすと、グルリと周囲を見回していた。


「おい、なんでティッシュの箱があんな遠くにあるんだ。」


ベッドの上に上半身を起こした状態で、彼が告げてくる。

その視線は、彼の机の上に置かれたままになっているティッシュの箱に向かって注がれていた。


「ふう~~・・・・・・・・・・・・ん、成る程・・・ね。」


ひとり、納得でもしたかのようにして私を振り返った彼の顔を、私は直視することが出来ずにいた。

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