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真昼の月=月の誘惑1=

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


久し振りに踏んだ家の敷地に敷き詰められている大量の飾り石。

それを音をたてて踏みしめながら、ゆっくりと自分のペースで歩み行く。


見上げたそこには大きな月。

それが、朧に光を放っていた。




「?!」


いつものように本邸に向かってその足を進めていると、右手奥に、小振りな平屋建てが姿を現した。

その入り口のドアが、僅かに開いたままになっていることを、遠目ながらも確認することが出来ていた。


無用心な・・・・・・・・・・


そう思い、歩みを進めていた足の方向をソチラへ向けて転換し、そのドアの前に立つ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・ドアを閉めようと、伸ばし掛けた自分の手が、ふ・・・・・・・と、思い当たるところがあって、そこで動きを止めていた。

今、中にいると思われる筈の人物のことを考えると、その彼女が中でどのような状況になっているのか、少し気掛かりだった。


時間は深夜2時を少し廻ったところ、時間帯を考えると、彼女は仕事を終え帰って来たその足でこの自分専用の離れに到着し、やっとのことで室内に辿り着いている・・・・・・・・と、思われる。


ドアの状態を見たところ、軽くそういった背景を想像していた。


その辺に転がって寝ているんじゃないだろうな・・・・・・・・


少し、不安になってきた。

この時間帯に時折自分が帰ってくることは良くあることだった。

が、それまでにこの建物のドアが開け放たれたままの状態になっているのを目にしたことは無かった。


と、なると・・・・・・・・・どうしても、中の様子が気になってしまう。

結果としては俺はそのドアを開き、その場から中を覗き込んでいた。

しかし、見える範囲内に彼女の姿を確認することは出来ずにいた。


寝室に辿り着いているのだろうか?!

念の為、寝室を確認しておくことにする。

そこに居なければ、ひょっとしたら浴室かどこかで眠りに就いてしまっているのかも知れない。

その時は仕方がないので、せめて寝室に移動くらいはさせて、その上でそこで眠らせてやろう。


そういった考えから、寝室を覗き込んでみた。


僅かに、寝息らしきものが聞こえてくる。


なんだ、ちゃんとここで寝ているのか。

そう思って安心して寝室のドアを閉め掛けた時、視界の端に白い滑らかな足が二本、飛び込んできた。


一瞬、ドキリとして、閉じ掛けたドアを動かす手が止まる。


薄暗い部屋の中に覗く、二本の白い足⇒死体・・・・・・・・・・なんてことはないのだが、その視界に飛び込んできた光景がどうにも気になって、そうなると、どうしても確認しておきたいという衝動に駆られてしまっていた。

寝息が聞こえるのだから、そういったことなどは絶対に有り得ないのだが、取り敢えず、健康状態でも確認しておいてやるか・・・・・・・・・・・


超・多忙な母の健康状態を確認するという名目の元、そのドアをゆっくりと開いた。


薄明かりの中写し出された彼女の姿は、想像していたよりも穏やかな状態にあった。

昼間の快活な彼女とは打って変わって、穏やかな表情で寝息をたてているその姿は、丸で別人のように思えてならなかった。


自分にとっては意外と思えたその姿を、俺はその場に立ち尽くしたまま、黙って見下ろしていた。


寝室に辿り着いてはいたが、敷かれている布団とは程遠い位置で、彼女は寝息をたてていた。

着替えを済ませているようなので、風呂には入れたようなのだが、どうやら、寝室に入ったところで睡魔に負けてしまったらしい。


惜しかったな、あとちょっとでゴール(布団)に辿り着けていたのに・・・・・・・・


そんなことを考えながら、足元に転がっている彼女の体を抱き上げていた。

それで起きたのなら起きたで、あとは自主的に彼女に布団の中に入ってもらおう、そう、思っていた。


「・・・・・・・・・・う・・ん・・・・・・・」


抱え上げられたことによって、彼女がその口元から呻きのような寝ぼけたような中途半端な声を漏らしていた。


う・・ん・・・・・・・・・じゃ、ねえよ、寝るんなら、ちゃんと布団の中で寝ろ!!


心の中で毒吐きながらも、一瞬、奇妙な感覚が体の中を駆け巡っていたことに俺は気がついていた。

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