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籠の中・・・1

可愛い。


思わず、呟いてしまった。

細く、しなやかな黒髪。

大きな黒い瞳。


そして、私とそんなに変わらない彼の身長。



突然振り出した雨。

私はバックの中の折りたたみ傘を出しそびれてしまっていた。


叩きつけるような強い雨に打たれながら、私が駆け込んだのは、馴染みの場所だった。


「薫、雨に降られちゃった。」


びしょ濡れになって戸口に立つ私に、彼は一瞬呆然としたような表情をしていた。

けれど、それ以上は咎めることも無く、アパートの自室へと招き入れてくれた。


「何か、あったかいものでも飲むか?!」


彼は、大きなタオルを私に向かって放り投げると、問い掛けてきた。

「うん、砂糖タップリのカフェ・オレが飲みたい。」

「ミルクもタップリ・・・か?」

「うん。」

彼の問い掛けに、私は自分の髪をタオルでワシャワシャと拭きながら、その横へと歩み寄る。


「おい、お前、もっと良く拭いてから上がれよ。」

「え?!拭いたよ???」

言われて振り向くと、点々と水の滴った痕が室内の所々に見える。


「ゴメン。」


流石に、気まずかった。

大きな溜息をついて濡れた床を拭きだした彼の隣につく。

「薫、わたしが拭くよ。」

彼の手にしているタオルに手を伸ばした。


「・・・・・・・・・・・いい。お前は自分の髪を良く拭き終わってから動け。でなければ、風呂場にでも行って来い。」


「う、うん・・・・・・・・・・・・・」


私は彼の言葉に従い、部屋の片隅に設けられている浴室へと向かった。


がんっっ!!!!!

「いったあ~~~っっ!!」

「?!」

彼の言葉に従ったのは良いのだけれど、一人、床を拭く彼が気になってソチラに気をとられた私は、浴室の入り口の段差に強かに足をぶつけてしまっていた。


弁慶の泣き所・・・・・・・・向う脛。


あまりの痛さに、思わず涙が零れそうになる。

「今度は何をしたんだ?!」

その時の音を聞きつけて、彼、早瀬 薫が近付いてきた。

そして、足を押さえる私の顔を覗き込んできた。


「ぶつけた。」

「・・・・・・・あ~・・・・俺もたまにやる。」


そう告げながら私の足の状態を確認している薫の髪が、サラリと彼の横顔を覆う。

綺麗、と、いうよりは、可愛いと言った方がピタリと当てはまる顔立ち。

私はつい、無意識の内に、彼の頬を撫でる横髪に触れた。


「ふふふ、可愛い。」


思わず、ポツリと呟いてしまった私の言葉に、彼がピクリと奇妙な反応を示した。


「可愛い?!誰が・・・・???」

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