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年下の彼8
「ごめんね。」「?!」
私の言葉に、キスを終えてその体を優しく抱き締めてくれていた彼が、ほんの少しだけ反応をする。
私の言葉の意味を確かめるようにして、不思議そうな、不安なような表情で、彼は私の顔を見下ろしてくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その顔を見ているだけで、自然に涙が零れ落ちてきて、私はそれを拭うことも出来ない状態で彼の顔を黙って見上げていた。
「馬鹿な大人で、ごめんね。」
それだけ言うのが精一杯で、後は次から次へと沢山の涙が零れ落ちてきて、何かを言おうとすると、言葉とは関係の無い呻きというか、子供のような泣き声が漏れそうで怖かった。
「ほんとに・・・・・・・ごめ・・・・・・・・・・・」
なんとかして何かを言おうとしても、やっぱり、キチンとした言葉にはならなくて・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・なんで、奈々深が謝るの?!何も悪いこと、してないじゃん。」
なんて言って、強く抱き絞められたりしたその時に、温かな彼の体温と、ゆっくりと繰り返されている彼の呼吸音に改めて触れることができた。
そうしていると、なんだかとっても安心することが出来て、再び大きく乱れだしていた私の心も、少し落ち着きを取り戻したかのように思えてきた。
そのことを確認して、私は彼の胸の中でゆっくりとその呼吸を整える。
「私、悠一くんの未来、壊したくない。」
「何それ、いつ、俺の未来が壊れたの?!何言ってるの??」
「だって・・・・・・・・・・・・・・・」
なんて、会話を繰り返しているうちに、何事かと私達を横目に気にしながら通り過ぎる通りすがりの人達とすれ違うようになる。
そのうちの幾人かと、彼の視線が重なる。
そうなると、重なった方の相手がビクッとしたようにして慌ててその視線を逸らして、その場から足早に去っていく。
そんなことが、何度か繰り返されていた。
「奈々深、ここじゃ、その、なんだから・・・・・・・・続きは、奈々深のアパートで・・・ね、お願い。奈々深、気持ちは分かるけど、もう少し、落ち着こ??ね。」
なんて言いながら、彼がゆっくりともう一度唇を重ねてきた。
例え年下でも、彼は彼で、私にとってはとても大切な異性であり、立派に『男』としての対象内に入っていて、その彼に宥められて私達は再び歩き出していた。
「ごめんね。」
「だから、その話は後でジックリ聞くから、・・・・・・・・俺も、奈々深とはキチンといろんなこと話し合っておかないと、って思っていたし、良い機会だから、ちゃんと話そ、ね。」
なんて、未だに泣くことしか出来ないでいる情けない私の手を痛いくらいに強く握った彼が、スタスタと早足で歩いている。
その道の先に、見慣れたアパートが見えてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
足を止めてそれを見上げるようにしていると、彼が理解したのか、私の方を振り返って尋ねてきた。
「ここ?!」
問われて、私は黙って頷いた。
「どこが、奈々深の部屋なの?!」
「2階の、一番手前。」
「・・・・・・・・・一緒に部屋に入っても、良いよね。」
「うん。」
彼と視線を合わせることは出来なかったけれど、握るその手に力を入れると、彼もそれを受け入れるかのようにして、優しく握り返してきてくれた。
「ごめんね。」
「そのことはいいから。」
思わず、また謝ってしまうと、彼は短く吐き捨てて、私の手を引きながらその階段を上りだしていた。
「奈々深、鍵、開けてくれる??」
彼に言われて、バックの中から鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込んで回す。
と、カチリと鈍い音と共に、それが開いた音がした。
隣にいる彼の顔を見上げると、彼はいつもと同じようにして優しい笑みを私に向けてくれていた。
ゆっくりとそのドアノブに手を掛け、ドアを開く。
開いたドアの奥を視線で示して、促すかのようにして彼をゆっくりとその中に招き入れると、それを閉じ、シッカリと鍵を掛けていた。