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気まぐれ仔猫Ⅱ・16

携帯の向こうから聞こえてきたその声は、物凄く焦っているみたいだった。


「海里、あんた、今、どこにいるの??塚本の奴が「笠原が真っ青な顔して椿を探してる」って言ってうちにまで乗り込んできてるんだけど・・・

あんた、今、なにしてるの??」


それは、友達からのTEL。




「笠原が??」


笠原の名前に反応して、思わず大きな声で聞き返してしまう自分がそこにいた。

笠原・・・・・・・

私のこと、心配してくれてたんだ。


笠原とはあれ以来、何も話していないし、教室ですれ違ったりとかしてもずっと目を反らされていたから、きっとあの彼女とよりを戻したのかな??

って、思ってた。

あの彼女と笠原・・・自分的にはあまり認めたくないところもあったけれど、誰を好きになるかは本人次第だし、それに、今は私にはりゅうちゃんがいる。


あの時みたいに、宙ぶらりんな心の状態で彷徨っていた時とは違って、私の中には気持ち的にそれまでと違う、別のものが生まれてきていた。


・・・・・・・その電話が掛ってきたのは、りゅうちゃんが喫煙室から出てきて、一緒に歩きだしてから間もなくのことだった。


「なんでかは分からないんだけど、塚本の奴がやたらと興奮していて「あの変態女」とか言ってて・・海里、あんた、今、何もないんでしょ??平気なんでしょ?!なんか、笠原も塚本も怖いくらいに興奮しててさ、尋常じゃないし、聞いてもちゃんと話してくれないんだ、ね、海里、何があったの??」


矢継ぎ早に言葉を吐き出しているその後ろで、なるほど、確かに、落ち着きなく何事かを苛立ったようにして口にしている塚本の声が、時折聞こえてくる。


「心配掛けてごめんね、私は大丈夫だから・・それより、笠原の連絡先、分かるかな?私、直接話すから、塚本にも言っておいてくれる?!お願い。」

「・・・・・・・・・うん、分かった。塚本!!心配するなってよ、海里、元気だよ、それと、笠原の連絡先だってさ!!」


桂(けい)ちゃんがいつもの調子で、近くで苛立ったままの塚本に言葉を掛けているみたいだった。

塚本は、笠原といつも一緒にいる「賑やか」な奴で、こいつがひとり、静かにしているところなんて、見たことがないような気がする。


「おい、椿、本当に何もないんだろうな。」


携帯の向こうから聞こえてきたその声は、普段聞き慣れていた彼のその語調とは明らかに違っていた。

物凄く、重みのある声、塚本でも、こんな声、出す時あるんだ。

なんて、妙なことに感心してしまったりもしていた。


「・・・うん、その、今は平気、私、笠原と直接話をしたいんだけれど、連絡先教えてもらえるかな?!」

私の問いかけに、彼は少し腑に落ちないといった感じに間を開けて、それからちょっと不機嫌そうな声で「分かった」と告げてきた。

それから「念の為、俺の連絡先も添付しておくから、奴に繋がらなかった時はこっちに連絡してくれ」って、その言葉を最後に通話が途切れてから間もなく、私の携帯に笠原と塚本、ふたりの連絡先が送信されてきた。


「私は大丈夫、心配しないで。」


絵文字もなにもない、ただ、それだけの文章を、メールに乗せて彼に送った。

彼の声を聞くのが怖かった。

だから・・・・・・・・


「りゅうちゃん、ごめんね、行こう。」

私のやり取りを横目に、彼は黙って少し離れたところで待っていてくれていた。

その彼に声をかけ、歩き出そうとした時に、私の携帯が着信音を鳴り響かせてきた。


出ろって感じに、彼がその仕草だけで伝えてくる。

私は「ごめんね」とひと言添えて、また彼から少し離れると、携帯のボタンを押した。

相手は、改めて確認するまでもなかった。


「・・・・・・・・椿・・・」


携帯の向こうから、少し遠慮勝ちに響いてきたそれは、笠原のものだった。

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