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真昼の月=優しい誘惑5=

「匠、今のお前さんじゃあ、どうあがいてもあいつにゃあ敵わねえよ、宙に浮いたまま、あっちにふらふら、、こっちにふらふら・・・・・・・・と、向いた方向に合わせて浮きまくっているお前には・・な。」


「うるせえな。」



言いながら軽くそいつを睨みつけてやる。

そいつに今この場で改めて言われるまでもなく、そんなことは自分でも理解出来ることであって、改めてそのことを指摘されるということは面白くないものだ。






自分なりにでも理解はしてはいたが、それはそれで良いと思い、生きてきた。

だが、今となってはそういった考え方も、俺の中では過去のこととなりつつあった。

俺の周囲の状況が一変したことが、俺自身の考え方を変える、大きな要因となっていた。


「・・・・・・・・なあ、俺があの野郎と対等に渡り合えるようになるにはどうすれば良いとお前は思うんだ?!」

「さあな、ま、あ、一朝一夕で出来ることじゃあねえことくらいはお前だって分かっているだろう??」


奴は車のハンドルを握ったまま、正面を見据えながらその指の間には愛用のタバコが煙を吐き出した状態で挟まれていた。


「ま、今更足掻いたところで仕方がないさ、今はお前のお気に入りのお嬢ちゃんの「お願い」を聞いてやることの方が先決なんじゃないのか?!」

「言われるまでもねえ。」


俺が即座に言い返すと、奴はその口元にニヤリと笑みを浮かべ、指の間に挟んでいたそれを銜えていた。


「・・・・・・・・・珍しいな。」

「何が・・だ??」

「あんたでも車のハンドルを握ることがあるんだ・・と、思って・・・・・・・」

「ふふ、スペシャルサービスだ、普段はぜってえにやらねえ。」

「だろうな。」


そう言いながらその背を思い切り良く座席にもたれ掛らせると、それまで無理に押さえ込んでいた睡魔が再び活動をはじめていた。


「たくよ、普通「意地だけ」で薬の効果が出ているにも関わらず、起き上がれるものなのかね??

予定だとお前、まだまだゆっくりとおねんねが出来ているだけの量のものを飲んでる筈だ・・・・・・・・と、言っても聞こえちゃいねえか、・・・・・ったく、俺はお前の専用運転手じゃねえんだぞ。」


などと言いながらも、奴はそのハンドルを裁き、確実に目的地へとその車を走らせ続けていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」

俺は、そんな奴の隣に座り、深い眠りに落ちていた。


奴の言葉通り、志信の奴に飲まされた薬が俺の体の中で、まだまだその効果を発揮し続けていた。


瑠依の語り掛けに反応して一時期とはいえ、目を開け、対応が出来たこと自体、俺自身でもなぜ出来たのか、不思議ではあったが、まあ、いいだろう。

それだけの事が出来たのなら、上出来だ。

取り敢えず自分を褒めておいた上で、先に進むとしよう。


ちっ、面倒臭えな・・・・・・・・・・こんなことになると分かっていたのなら、あの「ばあさん」にでも点数稼ぎをしておいたんだが。


そんなことを今更悔いても仕方がないのだが、瑠依との接点が深くなってしまった以上、彼女の存在は外せない。

奴に、頼まれた一件を終えたのなら、可能であるうちに接触を試みておいた方が良さそうだ。


車に揺られながら、薄れ行く意識の中で、ふ・・・・・・・とそんな考えが浮かんだような気がした。


あのばあさん・・・・・・・・・・・「篝 詩音」は瑠依の父方の祖母であり、俺の直ぐ上の兄、聖の身元引受人でもある。

彼女の後押しというか、了解のようなものを得られさえすれば俺の足元も少しは楽になるんだが・・・


適当にぷらぷらと彷徨うようにしながら、ただ何となく生きているのが楽だったんで、そのままぷらぷらと生きてきたが、そんな俺でも一応は欲しいもの、やってみたいと思うような事柄に出会うことが出来たようだ。


そして、それを得られるかどうかは定かではないが、得られる可能性があるのなら、自分なりに動いてみるのも面白いかも知れない。

そう、思うようになっていた。


そして、俺はその「欲しいもの」を得る為に、自分として必要と思われる行動をこれから開始することとなる。

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