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泡沫5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。閉じられていた瞼を開くと、そこには見覚えのない天井の模様が映し出されていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その天井を私は虚ろな表情で見上げたまま、何も言わずにその場に体を横たわらせていた。
私の体は、布団の中に納まっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
気だるいような、奇妙な感覚を抱えたまま何気なく仰向けになっていたその体を横向きにし、改めて寝直す事にした。
「?!」
・・・・・・と、その目線の先に、人の腕らしきものが見えた。
腕・・・・・・・・・・・・・・だ。
人の・・二の腕。
・・・・・・・・・・この腕、何となく見覚えがある・・・・・・・ような気が・・しないでも・・・ない。
ぼんやりと見たその腕には、やや細身ながらも均整の取れた筋肉が見て取れる。
それは、間違いなく男性のもので・・・・・・・・
私は、寝ぼけ眼のまま、何の疑いも無くその腕に自分の腕を絡み付けると、再び深い眠りに落ちていた。
「おはようございます。」
「お目覚めですか。」
「お食事、お召し上がりになりますか??別室に準備、整っておりますが・・・・・・・」
あれからどれくらいの時間が過ぎたのか、気が付いた時には既にお日様が高い位置にまで昇りきっていた。
結局のところは目覚めてみると、布団の中にいたのは自分ひとりだった。
のろのろと着替えを済ませて部屋を出ると、厳ついおっさん達がそれこそ怒涛のようにして挨拶をしてきた。
一体この屋敷には何人くらいがこうして住んでいる・・・・・・・・と、いうか常駐しているんだろう??
なんて思いながらもそんなおっさん達の横をすり抜けて、長い廊下を歩いていた。
結局、昨日はあのまま体の採寸と、必要な衣装合わせだけを済ませるとそのまま帰されてしまっていた。
で、先輩と一緒にそのお宅にまで上がりこんじゃって、で・・・・・・・・・・・・・・・・・
えっと~・・・・・・・・・・・・・
その後、何、してたんだっけ??
あ、そうそう、なんだか超・高級檜風呂に入って、それから部屋に戻ったら飲めや歌えやの宴会騒ぎがあって、私は取り敢えずシュース飲んで適当においしそうなの摘んで・・・・・・・で、寝た。
うん、寝た。
で、今、起きた。
あの超・お金持ちのお宅からはその後、これといって特に何も言われない間は自宅待機を命じられている。
で、結局私の政略結婚の話はどうなったのだろう??
なんだかあの後で先輩と、私の依頼主とで何やら話し込んでいたみたいなのだけれど・・・・・・・
そんなことを考えていると、ドカドカドカと派手に廊下を歩く音が響いてきた。
あ~・・・・・・・・・・・改めて確認するまでもない。
「なんだ、もう起きたのか・・・・・・・・・・・・」
私が通された部屋で遅い朝食を摂っていると、そこの引き戸をスッ・・・・・と開けて姿を現したのは先輩だった。
「起きました。
で、先輩、私、ここでお世話になっている間は何をすれば良いのですかね??」
「ん??あ~適当。」
「・・・・・・・・・・・・それ、一番困るんですけど・・・・・・・・」
「そうか??」
なんて言いながら先輩が私の直ぐ隣に腰を降ろした。
「じゃ、俺と少し一緒にその辺見て回るか??」
「って、何をです?!」
「色々と・・・・・・・だ。」
答えた先輩が少し意味を含んだような表情を浮かべていた。
「お前、夕べの事、覚えているか?!」
少し間を空けてから、先輩が何を思ったのか話題を変えてきた。
「全然。」
私は目の前のおかずにお箸を伸ばすと、それを取り、口に中に運びながら答えていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・檜風呂に入ったことも、宴会騒ぎしたことも、か??」
「それは覚えています。
でも、その後の記憶が目一杯残っていないのはどうしてなんでしょうね、先輩。」
「なんだ、覚えていねえのか、つまんねえな。」
「・・・・・・・・だったら、今度からはおかしな薬コッソリ入れるの、止めてくれませんか??」
「・・・・・・・知ってたのか??」
先輩は私の言葉に悪びれることも無く、言ってくる。
「3杯目のジュースに、入れたでしょう??」
「まあ・・・・・・・・・な、だが、飲んだな、お前。」
「そうしておいた方が、後々面倒がないだろうと思ったからです。」
「で?!その後どうなったかぐれえは想像出来んだろ??」
「・・・・・・・・・・・・そうですね、想像なら・・・・・・何しろ、記憶が無いものですから。」
「じゃあ、今夜はそれなしでやってみるか??」
顔色ひとつ変えることなく告げる先輩の顔を、私は黙って見上げると少し冷めたような表情で答えていた。
「構いませんよ。」
・・・・・・・・・・・と。