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年下の彼6
時間を忘れてしまったかのようにして繰り返されたキス。彼がそれの終わりを告げるかのようにして、私の頬に手の平を添えると、それまで絡み合わせていた舌先をそっと引き抜いて、触れるだけのキスを続けた。
ディープなキスも良いけれど、私はこうして軽く重ね合わされるキスの方が心が落ち着いて、好きかも知れない。
彼の胸元に手の平を添えながら、私はそれを受け続けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
随分と長い時をかけてから、私達の互いの唇は離された。
時が許すのなら、いつまででもそうしていたのかも知れないけれど、彼が視線を移したそこには、見慣れた景色が飛び込んできていた。
それは、彼が降りる駅が直ぐそこにまで近付いてきている、ということを意味していた。
「本音言ったら、今日はこのままずっと一緒にいたいけど、私も明日は仕事があるし、悠一くんは学校があるから、残念だけど、ここでお別れだね。」
離れたくないという思いを必死にこらえて彼に話し掛けると、彼はそれまで積極的に私をリードしてくれていたのが嘘のように静かになっていた。
黙ったまま俯いて、私の背中に廻している腕に、ぎゅっと力を籠めてきた。
「あの、悠一・・・・・くん。駅、降りないと・・・・・・・・・ね。」
宥めるようにして必死に訴えたのだけれど、彼は私の言葉を遮るかのようにして何も言わずに、強く、私の体を抱き締めてくる。
「今日は、送っていくから。」
彼がやっと言葉を発したのは、開かれた電車の扉が閉じ、その車体がゆっくりと進行を再開してからのことだった。
彼のその言葉がどういった意味合いを含んでいるのか、想像はついたのだけれど、この状況で彼を悪戯に刺激するようなことは出来なくて、私は黙って彼の髪にそっと手を当てた。
いつもだったら絶対に届くことのないそこは、少し彼が屈み加減になって私に抱き付いてきているから、容易に触れることが出来た。
「・・・・・・・・・・・・うん、分かったから、だから、ね?!お願い、もう少し腕の力、抜いてもらえる??」
「・・・・・・・・・・・。」
彼の顔は見えないけれど、その体が僅かに動いて反応を示した。
「私、何処にも行かないよ、だから、お願い・・・・・・・・」
「うん。」
ゆっくりと言葉を続けると、短い返事と共に、スルリと彼の腕の力が抜けてきたのが分かる。
ふう~・・・・・・・・・・・
それを確認して、それまで少し不便になってしまっていた呼吸を私はゆっくりと整えた。
「ごめん、苦しかった?!」
彼は私の肩の上に自分の顔を埋めるようにしているので、未だにその表情を見ることは出来ないけれど、申し訳なさそうにしてボソリと謝罪の言葉を述べてきた。
「大丈夫だよ、気にしないで。」
言いながら、少し長めの彼の髪を撫で上げた。
彼が、私の手の動きに少しだけピクンと反応したけれど、それ以上は反応らしい反応を示すことも無く、私の体を抱え込んだまま、動かずにいた。
「奈々深、ごめん、俺・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・」
それまで黙って私の体を抱え込んでいた彼がその体を起すと、ちょっと恥ずかしそうにして伏目勝ちに私の事を見てきた。
どうしたの?!
聞きかけたけれど、彼が何に戸惑いを感じているのか、直ぐに分かった。
「大丈夫?!」
思わず聞いちゃったけれど、彼はかなり気不味そうにしている。
悠一くん、あれが・・・・・・・・・その、元気になりつつあるみたい。
なりつつ・・・・と、いうか、既に・・・・・・・・なのかも知れない。
触れ合っているその部分が、ちょっと硬さを帯びてきたような気がする。
「あの、もう少しで私が降りる駅に着くけど・・・・・・・・・その前におトイレ入って来る?!」
小声で伝えると彼は黙って頷いて、私から身を離すと、足早にその車両から立ち去っていた。
私の降りる駅のホームが見えてきた頃になって、いつもと変わらぬ表情の彼が戻ってくるのが見えた。
私がその存在に気付いて見ている事を知り、彼は少し照れ臭そうにして笑みを漏らしていた。
そんな彼が可愛くて、おいでおいで、って感じに、ちょっと動きの止まってしまっている彼を笑顔で手招きすると、彼は嬉しそうにしてやってきて、私の隣に陣取っていた。
「ただいま。」
「お帰り、もう、駅に着くよ。」
「良かった、間に合った。」
「ふふふ、そうだね、間に合ったね。」
なんて話をしながら、私達はいつもと同じように手を繋ぐと電車を降りていた。